カギを握っている空撮
わが国の税制の特色をいくつか述べてみよう。
第一に、所得税の貯蓄に無影響、という私の判断を支持する証拠となりうる。
この二つの税制改革が所得再分配に与える効果を考えてみよう。
第一の利子課税では、高額利子所得者(あるいは高所得者)と低額所得者に共通の分離課税として二○%の比例税制なので、両者を同等に課税しているといえる。
すなわち累進税ではないので、高額利子所得者ないし高所得者に有利な改革である。
第二の消費税導入と税率アップは、間接税の特色がそのまま現れている。
すなわち逆進性の強化である。
この税は消費量に課税されることと、一率課税であるという点で、高所得者有利、低所得者不利の逆進性を生んでいる。
これに加えて、ここ十数年の間に所得税の累進度が徐々に緩和されてきた。
特に、高い水準をもっていた国税である所得税の最高税率が、五○%前後まで下げられたことが象徴的である。
これら三つの特色を総合すると、わが国の税制改革は基本的に再分配効果の弱体化と結論づけられる。
徴収に関して相当な不公平がある。
これは十・五・三、あるいは九・六・四といわれるように、所得の把握が職業によって大きく異なる点がある。
すなわち、雇用者、自営業者、農家の所得把握率が、それぞれ一○○%、五○%、三○%、あるいは九○%、六○%、四○%となっているのである。
農家、自営業者、雇用者の順で脱税率が高いのである。
このように職業によって脱税率が高いのは不公平といえる。
「正直者が損をしている」といってよい状況である。
申告所得に頼らざるをえないことと、わが国は脱税への処罰が厳しくないことが最大の理由である。
所得税のような直接税はこの問題を常に抱えている。
消費税のような間接税だと脱税率もかなり低くなるので、間接税中心の税体系を主張する経済効率への効果に関していえば、これも直接税よりも間接税に優位性のあることが理論的に証明されている。
すなわち、間接税の方が直接税よりも資源配分や経済成長へのマイナス効果が弱いので、直間比率の見直しが主張されるのである。
税徴収の公平性と経済効率への貢献を評価の基準にすると、消費税は魅力のある税制である。
しかし最大の欠点は、既に述べたように逆進性の性質である。
そこで効率性と分配の公平性の両方を満足するための税制改革として、累進消費税(累進付加価値税)の導入が理想として浮かび上がる。
多額の消費(あるいは高価な物品)に高い税率を、少額の消費(あるいは低価格の物品や食料品)に低い税率をかけるのである。
「累進」によって公平性を期待し、「消費税」によって効率性を期待するのである。
この累進消費税は徴税技術上は困難が伴う。
そう簡単に実施可能な税制ではない。
しかしコンピューター技術の飛躍的発展と、納税者番号制が普及すれば不可能ではない。
従って今すぐにというわけにはいかないが、長期的な視点から導入の検討がなされうる改革案である。
所得再分配政策の観点からの短期的な税制改革案は次のようになる。
第一に、所得税率の累進度を下げる政策をやめる。
第二に、所得税負担率が諸外国と比較して低いわが国では、所得税減税政策はさほど説得力がない。
景気対策として所得税減税を用いるのであれば、超短期に限定する必要がある。
ただし直間比率の見直しのための所得税減税はこの限りではない。
第三に、課税最低限所得額の引き下げの必要はない。
第四に、食料品等の必需品に関して消費税の免税措置を考える。
第五に、利子や配当の金融課税を分離課税制から総合所得税制にすること。
総合所得税制とはすべての所得源泉を合計して総所得に課税するものである。
総合所得税制だと累進制を導入させやすい特色がある。
その他にも細かい改革案はあるが、これの流れに即してこれ以上は立ち入らない。
資産分配の不平等を是正するために最も有効な租税政策は、相続税の強化である。
なぜならば資産分配の不平等を生む大きな要因が、遺産の授受だった。
このメカニズムを遮断するための方法として、相続税の強化が役立つことは容易にわかる。
各人の初期条件を同一にすることと、努力と無関係の利益には課税があってよいというのが根拠である。
相続税の強化を提唱したい。
この改革案はそう簡単に受け入れられないことは十分知っている。
第一に、親が子供を可愛いと思うから遺産を残すのであって、それを認めないのは家族愛の否定ないし非人間的だという反論がありうる。
たとえ少額の遺産であっても、多くの人が遺産を相続しているのであるから、それらの人も心理的に相続税に抵抗する素地がある。
農家や商家といった自営業は遺産を通じての職業継みという性格もある。
これを否定することは行き過ぎである、等の批判がありうる。
しかし、次のような事情も忘れてはならない。
では遺産を受領できない人をどう考えたらよいのか。
初期条件でのハンディを認めてよいのか。
「子孫に美田を残さず」社会保障制度には年金、医療、生活保護、失業保険、児童手当、介護保険等、数々の異なった制度がある。
それぞれの制度改革を論じることは、それ自体が大きなテーマなのでここではそれを述べず、わが国全体の社会保障制度に関することを中心にして制度改革を論じてみよう。
公的年金や医療保険に関して、あらかじめ強固な所得再分配効果をもたせる必要がないというのが私の判断である。
これらは保険原理に立脚した制度であるし、不確実性への対処という性質もある。
不確実性を伴う保険原理の世界で、多くの人を納得させる再分配政策のという考え方を積極的にとる人々もわが国にはいる。
可愛い子には何も与えない方が、本人のためにはむしろよいという主張である。
第三に、職業の継みは別の政策を採用することによって、それを保証できる方法を考えることは可能である。
こうしてメリットとデメリットを考慮すれば、相続税強化の具体策が浮かび上がる。
第一に、高額な遺産には高い税率をかけるのが望ましい。
相続税における累進税率の強化である。
第二に、相続税や贈与税には脱税が横行していることはよく知られている。
特に高額遺産にそれが目立つ。
公正に遺産課税を行うことによって、相続税強化策の一部が実行されることになる。
計画はそうやさしいことではない。
例えば、死亡の不確実性や人口の年齢構成に変化がある場合、結果として異世代間や、同世代ではあるが異なる所得階級間に、ある程度の再分配効果が発生するのはやむをえない。
あるいは保険とはそういうものと理解してもよい。
第二に、公的年金民営化論がわが国でも議論されつつあるが、以下の理由でもって民営化論に賛成しない。
まず、「ナショナル・ミーニム」の思想が大切と考えるので、国民すべてに貧困に陥らないための生活水準を所得保障するためには、公的部分が関与するのが自然である。
年金を民営化すれば、個人によっては老後の所得保障を考えずに、現在の消費のみに関心を払うような近視眼的な消費・貯蓄行動をする人が出てくる。
このような人は引退後の所得がないことになる。
そういう人に国の税金で生活保護費を支給するようになれば、国の支出は過度札に大きくなる恐れがあるし、年金に加入し保険料を拠出していた人との不公平が生じる。
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